都市伝説『ヒサル』には元ネタがあった!?山口敏太郎が考察「ネットで語り継がれる妖怪」の正体

   

例えば「八尺様」だが、物凄いスピードで移動して男をさらうという性質は、山姥の性質に近い。また、2mを超える巨躯は「高女」や「七尋女房」などに類する妖怪だと思える。山から下りてきた異形の女が若い男をさらうモチーフは妖怪伝説ではありがちだ。
また「くねくね」だが、筆者はこれは発狂寸前の人が見る幻覚ではないかと推測している。多くの者は「くねくね」を見たことによって人間の精神が常軌を逸したと思っているだろうが、筆者は逆だと思っている。気が狂う前兆としてくねくねが現れるのだ。そしてこの「くねくね」も、筆者は伝統妖怪と関係があるのではないかと思っている。妖怪「しろうねり」や「のびあがり」など、人が目撃してしまうくねくねしたあやふやな妖怪は古来より数多い。人間とは、正常と異常の間に魔物を見つけてしまうものかもしれない。

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鳥山石燕『百器徒然袋』より「白容裔(しろうねり)」。ぼろい布でできた竜のような姿で描かれている

中でも大変興味深いのは先日不思議.netでも掲載された「ヒサル」で、これもネットで広がった妖怪だ。その性格には諸説あるが、基本的に人間や獣に憑依してその性質を変貌させ、殺してもなかなか死なないゾンビのようにしてしまうとされている。このような現代におけるホラー映画のような性質と設定は、いかにも現代妖怪といえるキャラクターだ。

実はこの妖怪にも元ネタといえる物がある。「ヒサル」ではなく「ヒーヒーサル」である。これは昭和初期の妖怪であり、佐藤清明の『現行全国妖怪辞典(昭和10年発行)(※編集注 日本で初めての妖怪辞典!)』に記載されている妖怪だ。この辞典には「人間や動物に取り憑く妖怪」としてしか記載されておらず、80年以上も詳しいことが解らなかった。我々妖怪研究家の間でも、永らく幻とされていた妖怪である。それがネットによりあっさりわかってしまったわけだ。意外とネット妖怪というのは、個人のねつ造や妄想だけではなく、伝統的な妖怪の断片的な情報を汲んでいることもあるのかもしれない。

民俗学の研究者たちはネット妖怪を馬鹿にするが、これは大きな間違いといえよう。民俗学で情報が欠落している妖怪が、ネットで補完されることもある。確かに近年、フィールドワークを否定する輩も多いが、今後はネットを使った広範囲で効率的なフィールドワークが必要とされるかもしれない。

しかしヒサルという妖怪の正体はたいへんに興味深い。人間に憑依し、凶暴化させるなどということは可能なのだろうか。

これはあくまで筆者の推論なのだが、寄生虫の可能性はないだろうか。ネズミに寄生するトキソプラズマという寄生虫は、猫を宿主にすることを非常に好む。そのためネズミに寄生して脳を操ると、わざとネズミを猫に近寄らせ自ら食べられようとする。つまり、宿主は脳に寄生したトキソプラズマに行動を強制されてしまうわけだ。そしてまんまと猫の体内に収まったトキソプラズマは、今度は人間の体内に入ることを望む

あの武田鉄矢氏もラジオ番組『今朝の三枚おろし』で話題にしていたが、猫を飼っている人の何%かはこのトキソプラズマに寄生されているという。トキソプラズマに寄生された人間は、脳に入り込まれ性格ががらりと変わってしまい、男性の場合は攻撃的になったり、反社会的になったりするが、女性の場合はエロチックになったりなまめかしくなったりする。つまり、トキソプラズマは人間の脳に寄生する事によって、人間の行動や性質を操ってしまうのだ。

寄生虫の世界はまだ未確認の事が多い。未発見の寄生虫の中には、どのような行動をとるのかわからないものも多いだろう。ひょっとすると憑き物の内何割かは、この寄生虫が原因なのかも知れない。ヒサルもひょっとすると、何らかの寄生虫によって哺乳類が脳を乗っ取られた結果だと推論できる。現代人の我々ならば寄生虫という概念はあるが、江戸時代以前の人々の中には寄生虫という概念はなかなか芽生えづらい。しかしそれを憑き物として表現したのならば納得がいく。

筆者は四国が出身であるがゆえ、犬神を描いた絵を何度か見たことがあるが、いずれも細長く描かれており、まるで神経中枢の絵を見ているようであった。この絵から推測すると、やはり憑き物とは人間の大脳に寄生し、神経を操ってしまう寄生虫のことを意味しているのかもしれない。

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岡熊臣『塵埃』にある犬神の画

どちらにせよ、これらが個人の妄想や創作の結果産まれた創作妖怪であったとしても、その根底に伝承妖怪の痕跡があるのは事実である。同時に、単なる精神病の一環と見なされている憑き物現象の中にも寄生虫という病理学的な原因が含まれている可能性がある。科学的かつ合理的な解釈とは、一方的な決めつけでなく常に客観的で平等であるべきだ。

筆者山口敏太郎は、これからもネット妖怪を応援し続けたい。

山口敏太郎氏運営のオカルト&サブカルニュースサイト『Atlas』

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