【秘儀】現役巫女が語る10年に1度の儀式「葛流女神社の御継の儀」が恐ろしい(後編)

   

一通り準備が終わると、いよいよ本殿下から10年前に奉納した御継箱を取り出す。本殿の格子戸を開ける時、みんな(特に経験者)の顔から緊張の色が見て取れた。

相変わらずの私は「どんなお供え物してるのかな?」「お人形ってどんなのだろう?」とか、めちゃくちゃ楽観的に考えていた。

そんな楽観的な考えも、格子戸を開けた時にすぐさま吹き飛んだ。

何とも言えないムワッとした匂いというか、生臭いというか、ジメジメした臭いというか、とにかく不快な臭いが鼻を突いたからだった。

普段は近づいてもそんな臭いしないのに、格子戸を開けた瞬間、中からそんな不快な空気が逃げ出してきた。

私は少し気持ち悪くなったため、ハンカチで鼻と口を覆いながら本殿の外で成り行きを見守ることにした。男の人たちが棒を使って穴の下にある箱にロープを引っ掛け、力を合わせて御継箱を引っ張り出す。

四人がかりで本殿の外まで出された御継箱は、一辺が1m程度の立方体だった。特に変わった感じはなく、10年の歳月を経てボロボロになっているただの箱だった。

男の人たちは緊張した面持ちのまま、バールのようなもので箱をこじ開ける。私はと言えば、本殿から流れ出てくる異臭が気持ち悪くて、少し離れた後ろの方でそれを眺めていた。

とは言っても、中がどんな感じなのか気になったので後ろの方から恐る恐る箱の中身を覗いてみた。気持ち悪い人形とかヤバい供物とか入ってたらどうしようと思ったけど、予想に反して中は空っぽだった。

ホントに空っぽ、すっからかん。人形や供物の欠片もなければ虫の一匹も入っていない。「なんだつまんない」とガッカリしてる私をよそに、他の人たちはどこかホッとしているようだった。

その後、事前に用意していた新しい御継箱(人形と供物を入れて封をした状態のもの)を、男の人たちがまた穴に入れて、本殿の格子戸は再び閉じられた。

しばらくすると異臭もしなくなり、私の気分も少し回復した。だけど、ここからが本番。お巫女さんとしての仕事が残されていた。

御継の儀では供物を捧げた後、神主が祝詞をあげる。その間、お巫女さんたちは御継音(みつぎね)という鈴を鳴らし続けなくてはならない。

神主さん「御継音は神様への合図、お供え物をどうぞっていう意味があるんだよ」

こっちが合図なんかしなくても、神様は自分で気づいて取りに来るよ。なんて思いながらも、とにかく祝詞が終わるまでシャンシャン鳴らし続けたらいいんだなって感覚で、先の練習通り他のお巫女さんたちに合わせてシャンシャンシャンシャンしていた。

この時点で私の頭の中には「早く帰りたい」の気持ちしかなかった。まぁ当たり前なんだけど、思っていたようなワクワクはなかったし、闇深行事も蓋を開ければ因習をなぞってるだけだった。

だけど、このすぐ後に私は小さな異変に気がついた。右隣でシャンシャンしていたC先輩が「ひっ」みたいな声を漏らしたのだ。

それが明石家さんまみたいな引き笑いに聞こえて、何がそんなに楽しいんだろ?って思ったけど、先輩を見ると青ざめた顔をしていた。その目は5mほど前で祝詞をあげている神主さんの方を凝視している。

ただごとではないその表情に私も神主さんに目を向けた。

だけど、別におかしいところはない。いつもの祭祀のように、私たちにはわからない大和言葉で祝詞をあげる神主さん。と思ったら、その神主さんの奥におかしいところがあった。

それは神主さんの奥に見えている本殿。閉じられた格子戸の格子部分にワカメや海藻のような黒いベタベタしたものがへばりついている。

なんて言えばいいだろう。乾く前の海苔というか、とにかくそういうものが格子部分を埋めるように纏わりついていた。

それが何なのかはわからないが、よからぬものだということは本能的に察知した。C先輩もヤバいと思ったのか、それ以上は声を上げず目を閉じて一心にシャンシャンしている。

私は「なんかヤバそう」と思いながらも、「ただ黒いベタベタがへばりついてるだけだしなぁ」とも思っていた。超常的な何かにしてはインパクトに欠けるというか、そんなに怖くはなかった。

とは言っても初めて目の当たりにする超常的な何かに、私はしばらく目を離せなかった。

黒いベタベタは最初は格子戸の下の方にへばりついているだけだったが、神主さんの祝詞が進むにつれて、まるで這い上がるように格子戸の上の方まで昇ってきた。

最終的には格子戸の3分の2くらいまでの高さが、黒いベタベタでびっしりと埋め尽くされた。ここまで来れば誰の目にも一目で異常だとわかるはずだけど、C先輩以外は誰一人声を上げない。それもそのはずで、他の人はアレを見ないように、神主さんの足元辺りから目線を動かさなかった。

ここで私は気づいた。みんなアレのことを知っていたな、と。

黒いベタベタはそれ以上は這い上がることもなく、格子戸を破って神主さんを襲うわけでもなく、ただベタベタしていた。

私は恐怖心よりもアレへの興味が勝ってしまって、ただずーっと黒いベタベタを見ていた。多分シャンシャンするのも忘れていたと思う。

怖いという気持ちは薄かったが、時折、風で揺れた篝火の炎が格子戸を照らすと、黒いベタベタが艶っぽく黒光りして気持ち悪かった。

それにしてもアレは何なんだろう。あれが山の神様?どちからといえば海の神様っぽいんだけど。なんて思いながら見ていると、また格子戸が篝火の炎で照らされた。

その時、私は見てしまった。黒いベタベタに覆われた格子の隙間から、無数の目がこちらをじっと覗いているのを。

その瞬間、これまでに感じたことのないくらいの悪寒と鳥肌が全身に走った。

目は1つや2つじゃない。数えきれないほどの目が、格子の隙間からこちらを見ている。アレを見ているのが私しかいないせいか、それら全てと目が合った気がした。

恐怖心のあまり目を閉じた。ヤバいヤバいヤバいヤバい、これは絶対ヤバい。

あまりにも衝撃的な光景を目の当たりにした時って、人は目を閉じてもがっつり脳裏に焼き付いてしまうんだね。目蓋の裏にもあの無数の目が浮かんできて、「ここから逃げ出したい、とにかく早く終わってくれ」と念じながら、私は周りに合わせてひたすらシャンシャンした。

結果、それ以上は何も起こらなかった。しばらくすると祝詞は終わり、私は恐る恐る目を開けた。こんなに怖いのに目線は自然と格子戸に向かう。すると無数の目も黒いベタベタも消えていた。

ホッとした反面、怖すぎて早く本殿から離れたいとも思った。

その後、私たちはみんなでお祓いを受けて御継の儀は終わった。本当はすぐにでも帰りたかったんだけど、御継の儀の後は関係者全員で祓い酒(お酒の席)を設けることが伝統らしく、強制的に参加させられることになった。

でも、それでよかったんだと思う。このまま帰っていたら、怖すぎて眠ることはおろか、お風呂にもトイレにも行けなくなってたんじゃないかな。

お酒の席では私とC先輩がアレを見たことをみんなが察してくれて、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。C先輩は「おしっこ漏れた」と言っていた。

そんなことよりも、みんながアレについて教えてくれなかったことに私は憤りを感じていた。教えてくれたら見なかったかもしれないのに。いや、私の性格上、多分見ていただろうが、少なくとも事前に教えてくれていたら、C先輩が見ておしっこを漏らすことはなかっただろう。

そんな憤りを感じつつ、私はアレが何なのかを知りたかったので、神主さんが私たちの席にやってきた時に聞いてみることにした。

私「神主さん、アレって何なんですか?」
神主さん「アレ、見ちゃったの?笑」

神主さんは最初はおどけたが、C先輩の泣きそうな顔を見て空気を読んだ。

神主さん「アレが何なのかはわかってないんだけど、私はこれまでに供物とされた巫女たちなんじゃないかと思ってる。家族や人々のために重大な使命を背負って巫女となった女子たちも、死に行く間際には自分の運命やこういう運命に仕立て上げた人たちに、少なからず恨みのようなものを抱いたんじゃないかな。そういう怨念みたいなものが積もり積もって、あんなかたちで現れたんじゃないかな」

私はてっきり山の神様が現れたのかと思ったけど、あれは悪霊みたいなものだったのか。言われてみれば黒いベタベタは人の髪の毛みたいだったし、何人もの巫女の怨念だとしたら無数の目も納得できる気がする。

神主さん「私の父の代よりずっと前からアレは現れていてね、御継の儀の後は毎回地域の代表に立ち会ってもらって、彼女たちの供養をしてるんだよ」

何だかそうやって聞くと、怖いというよりかわいそうという気持ちの方が強くなった。

彼女たちは末子として生まれてきた時点で、巫女としての役目を与えられるらしい。物心つく前から神様への祈りや自分の役目について教育され、自分の運命に疑問を持つこともなく御継箱に入る。そんな彼女たちでも、きっと命が尽きる前に自分の運命を恨んだんだろうな。

巫女たちがどんな思いで死んでいったかって考えると、なんだかかわいそうだった。

そんな話を聞いたせいか、この日はお酒を飲んでも全然酔えずシラフのまま家に帰った。次の日からは何事もなかったかのように、いつもの変わらない日々が始まった。

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一夜明ければ嘘のようで、A神社はいつも通りの平穏だった。しばらく本殿には近寄りたくないと思ったけど、そういうわけにもいかず、しばらくはビクビクしながら日々の業務をこなしていたが、それもいつの間にか大丈夫になった。

それ以降、A神社で神的な何かや霊的な何かを見ることはなかったが、この出来事がきっかけで私の神社に対する認識は大きく変わった。

神社の中には観光地化しているところも多い、遊園地と同じようなところもあるだろう。だけど、A神社だけは本物だ。

また10年すれば次の御継の儀がやってくるけど、それまで私はここにいないと思う。巫女たちの境遇を聞いて哀れむ気持ちはあるけれど、だからと言って彼女たちをずっと見守っていくほど正義感に溢れた人間じゃない。そもそも巫女は定年が早いから、その前に辞めなくちゃならないかもだけど。

ちなみにC先輩はまだA神社で奉仕をしているが、近々辞めると私にだけ教えてくれた。C先輩の怖がりっぷりを見れば仕方のないことだと思う。

そういえば、祓い酒の席で自治会長さんが言ってたことで、一つだけ気になることがある。

御継箱を開けた時、中身は空だったと話したら、

自治会長さん「あれは空っぽになるのが正解なんだよ。箱の中に何もないってことは、正しく神様に捧げられたってことになるからね。逆に骨なんかが残ってたら、神様に捧げられなかったってことで、昔は災厄が起きるって言われてたんだよ」

少し前は巫女の代わりに家畜の血肉を供物として捧げていたらしいが、骨が残っていたため、縁起が悪いってことで今のようなかたちになったらしい。

その時は「ふーん、そうなんだぁ」くらいにしか思わなかったけど、ふと疑問に思った。それじゃあ今は何を供物にしてるんだ?

人形が巫女の形を表しているのはわかる。だけど、山の神様に捧げる供物には養分としての役割があるはずで、人形の他に巫女の体の代わりとなる血肉が必要なんじゃないだろうか?

新しい御継箱にどんなものが入っていたのかは見れなかったけど、家畜の血肉じゃないとすれば一体どんな供物が入れられたのだろう?

そんな疑問はあるけど、私はきっとこのことを誰かに尋ねることはないだろう。

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